散歩道<2773>

                       けいざい・ノート・金融危機が与えた宿題(1)                    (1)〜(3)続く
                   経済学は現実に無力か  新しい理論生む契機に

 オバマ政権は総額74兆円に上る景気対策を打ち出した。新政権の主要経済閣僚であるローレンス・サマーズ国家経済会議議長とティモシー・ガイトナー財務長官らは、クリントン政権の経済チームにいた。同政権で財政再建に心を砕いた彼らが今後、心ならずも大規模な財政出動を主導することになるのは皮肉なめぐり合わせといえる。
 アメリカやヨーロッパの政策論議では、不況のときには財政出動、という従来型のケインズ経済学の議論が公然と甦
(よみがえ)っている。一部の学者は、これまでの節度をかなぐり捨てるようにラジカルな財政政策の発動を主張するようになった。こうした政策論争の動向は、経済学にどのような影響を与えるのだろうか。1930年代の大恐慌に対する経済学の反応として、経済を総体として捉えようとする「マクロ経済学」という新分野が生まれた。ベン・バーナンキ連邦準備制度理事会議長は、大学教授時代に出版した本で、「マクロ経済学の見果てぬ夢は大恐慌を説明することだ」と書いている。
 大恐慌への処方箋として、政府の財政金融政策によって経済を制御しようとするケインズ経済学が表れ、60年代までマクロ経済学の主流の座にあった。しかしその後、大恐慌の記憶がうすれ、各国で財政赤字の問題が大きくなると、ケインズ経済学の不備が問題視された。国民が政府の経済政策の先を巧みに読んで行動することを、ケインズ経済学は軽視していたからだ。こうして現在では、小さな政府と市場メカニズムの優位性を支持する新古典派的なマクロ経済学が主流となった。

'09.1.31
.経済産業研究所上席研究員・小林 慶一郎氏

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