散歩道<2753>
風考計・オバマ大統領・キングの夢エノレアの願い(3) (1)〜(3)続く
○ ○
さて、「世界人権宣言」をご存じだろうか。「すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ尊厳と権利とについて平等である。人間は、理性と良心とを授けられており、互いに同胞の精神を持って行動しなければならない」と第1条で高らかにうたい、第2条で「人種、皮膚の色、性、言語、宗教」などによる「いかなる差別」も拒む。いわば人権のバイブルである。
2度の世界大戦などを経た人類の反省から48年に国連で採択されたのだが、これが昨年12月10日に満60歳を迎えた。オバマ大統領の登場はその祝砲とも思えるが、宣言の立役者がフランクリン・ルーズベルト大統領のエレノア夫人だったと、聞けば味わいもまた深まる。
亡き夫の身代わりのように第1回国連総会に参加したエノレアさんは人権委員会の委員長に選ばれた。名だたる男たちが敬遠したせいでもあるが、彼女は強い意志と粘りで厄介な意見対立を乗越え、ついに全30条の宣言を纏めて皆を驚かせた。そんな秘話を最近知った。
いま、100年に1度の経済危機に立ち向かうオバマ氏には、大恐慌を克服したルーズベルト大統領の再来かとの期待がかかる。
だがケニア人の父を持ち、フセインというミドルネームを持つ彼に課せられた役割には、それにはとどまるまい。「人権宣言」の理想をよそに民族や宗教の対立が渦巻く世界を先頭に立って変えること。エレノア婦人が生きていたら、彼女もそんな願いを抱くのではないか。それは、21世紀の世界を混迷に陥れた米国の罪滅ぼしでもある。
'09.1.12.朝日新聞・本社コラムニスト・若宮 敬文氏
関連記事:散歩道<763>風考計・戦後60年・政治に軍隊の記憶が消えた-(2)、<2718>-1,オバマ演説に学ぶ-(3)
