散歩道<2752>
                      風考計・オバマ大統領・キングの夢エノレアの願い(2)                   (1)〜(3)続く

 「I have a dream」(私には夢がある)という、かの有名なせりふを牧師が残したのはこの時だ。「いつの日か、ジョージアの赤い丘で、元奴隷の息子と元奴隷所有者の息子が、兄弟愛の同じ食卓につく」などと熱い夢を次々と語ったのだ。実は、冒頭のCDにはこの録音のさわりも収められていて胸に迫るものがある。
 このときすでにケネディ大統領は公民権法案を議会に提出し、差別撤廃を狙っていた。牧師をホワイトハウスに招きもしたが、11月、テロの凶弾に倒れる。翌年、ジョンソン政権のもとで法案は通ったが、68年にはキング牧師も暗殺。幼かったオバマ氏の心にも、やがて牧師の見果てぬ夢が深く刻まれたのだった。
 ケニア留学生と白人女性の間に生まれたオバマ氏は,正確に言えば奴隷の子孫でもないし純粋な黒人でもない。しかし、彼は自伝『マイ・ドリーム』にも書いたように、黒人と白人の結婚がおぞましく見られ、多くの州で違法とすらされた時代に生まれた稀なる子である。そして、ファーストレディーとなるミシェル夫人はまぎっれもない黒人であり、奴隷の子孫だ。このような夫婦がホワイトハウスに入る日を、キング牧師は想像しえただろうか。
 昨年11月4日の夜、オバマ氏は勝利演説でひとりの老人の名を挙げた。106歳になるジョージア州の黒人女性アン・プーパさんだ。オバマ氏は、「奴隷制が終わって1世代後に生まれた彼女」が100年にわたり見てきた多くの出来事の中に人種差別の有名事件も列挙し、夢はいつか実現するというキング牧師のメッセージに「YES WE CAN」を重ね合わせた。彼女は20日の就任式にも出席すると聞く。

'09.1.12.朝日新聞・本社コラムニスト・若宮敬文氏

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