散歩道<2730>
社説・混迷の中で考える(2) (1)〜(3)続く
格差と貧困の広がり
この間、日本では何が起きたか。
バブル崩壊後の不況脱出をめざし、米国流の市場原理を重視した規制緩和が本格化してほぼ10年。小泉構造改革がそれを加速した。その結果、古い日本型の経済社会の構造がそれなりに効率化され、戦後最長の好景気と史上最高水準の企業収益が実現した。
だが、同時に現れたのは思いもしなかった現実だ。声高な自己責任論にあおられたように貧富の差が拡大し、働いてもまともな暮らしができないワーキングプアが急速に広がった。労働市場の規制緩和で、非正規労働者が働く人の実に3割まで膨れ上がり、年収200万円に満たない人が1千万人を超えてしまった。
かって日本社会の安定を支えた分厚い中間層はもはやない。
しかも、財政再建の下で雇用保険をはじめ、医療や公的扶助といった「安全網」は細るばかり。いったん貧困の罠にはまると抜け出せない。それがありふれた現実になった。そこを今度の危機が直撃した。
こうした現実はしっかりと直視しなければならない。楽観は禁物である。しかし、いたずらに悲観論に陥ることも未来を見る目を曇らせる。
「100年に1度の津波」グリンスパン前米連邦準備制度理事会議長の言葉を多くの人が引用する。だが、たじろぐ必要はない。なぜなら、私たちの国は過去1世紀半近い間に、それこそ国がひっくり返る危機に2度も直面し、克服してきたからだ。
「一身にして二生を経る如(ごと)し」と言ったのは、封建の徳川の世と明治の文明開花とを生きた福沢諭吉だった。軍国主義の帝国日本が滅び、民主主義の新生日本を築いたのは、わずか60年余り前のことである。いずれの場合も、私たちは大規模な変革を通るして危機を乗越えた。
'09.1.1.朝日新聞、