散歩道<2709>

                 時の肖像くぐもる年の瀬・ブッシュ・小泉時代の終わりに(3)                  (1)〜(3)続く

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 人の世が激しくぐらつく時代だからか、悠久の自然の大きさと落ち着きには心ひかれるものがある。富士
*1のすそのへ向かった。思いがけないほどの高みに白く輝く山頂を望みはるかに遠く低くすそのをひく姿には、いつもながらはっとさせられる。頂上のすぐ脇に雲がわき、たちまち流れ、消えてゆく。風の激しさが見てとれる。絶え間ない風の中に立ち続ける富士は、日本列島が天空に掲げた天然の旗のように思われた。そのはためきを見ながら、もうひとつの「旗」を思い起こす。40年前の今ごろ、クリスマスを前に、米国の宇宙船アポロ8号が月を目指していた。初めて月の裏側を巡った宇宙船から撮られた映像には、月面のかなたにぽっかりと浮かぶ地球があった。宇宙の暗黒を背に、荒涼とした月面とは対照的な、青く、そして白く輝く、小さな、しかし、数十億の人々や生き物たちの命を乗せて浮かぶ姿は、地球が宇宙空間で静かにはためいているこのようだった。果てしない宇宙の片隅にある小さな点のような星の上で、悠久の時の流れの中の今という瞬間を共にして生きているということ。無窮と悠久とが交差した一点で起きている「一瞬の奇跡」。富士の山すそのに立ちながら、その奇跡の尊さと掛け替えの無さ、そして壊れやすさを改めて感じた。地球の姿を、特定の国々の思惑や主義主張で変えられてはたまらない。近年の単純、安直な二者択一の横行が地上にもたらしたものを顧みて、新しい年を、そこから抜け出す時代の始まりにしたい。


'08.12.22.朝日新聞・論説顧問・高橋 郁男氏

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