散歩道<2616>  

                        経済危機の行方・恐慌防ぐ手を正しく打て(2)                       (1)〜(3)続く

企業だけでなく働く人を助けよ 

 今回の金融危機に対し、ブッシュ政権は、巨額の金を金融界につぎ込めば他の人々もいくらかは助かるだろうという「トリクルダウン」(金持ちや企業が富めば、そこからしたたり落ちた富で全体が潤うという考え方)の手法をとっている。企業を助けるだけで、働く人々を助けようとはしてはいない。なにもしないよりはましかもしれないが、まずいやり方だ。
 ウオール街の特殊利益を優先する「企業温情主義」の発想が、正しい政策を阻んでいる。ポールソン財務長官やバーナンキFRB議長は、もはや市場の信頼も米国民の信頼も失っている。
 米国政府がまずなすべきは、ローン返済に行き詰った人が担保の住宅を失うのを防いだり、失業者を支援したりすることだ。景気を刺激して、経済を回復に導かねばならない。予定されている減税は早く実施すべきだし、インフラ整備も必要だ。高速道路の建設も有効だが、長期的な視野に立って地球温暖化対策に力を入れ、「クリーンなアメリカ」を作るべきだ。
 民主党はそういう政策を掲げている。しかし、(11月の大統領選挙で民主党のオバマ候補が当選しても)新しい大統領が政策を打ち出す来年1月の就任式まで、まだ3ヶ月もある。この期間中、共和党内の支持すらも失ったブッシュ氏が大統領の座にあることが、対策を遅らせる要因になっている。
 この危機をきっかけに、新自由主義は終わりを迎えなければならないと思う。規制緩和と自由化が経済的効率をもたらすという見解は行き詰った。
 ベルリンの壁の崩壊で、共産主義が欠陥のある思想であると誰もが理解したように、新自由主義と市場原理主義は欠陥のある思想であることを、ほとんどの人々が理解した。私の研究はすでにそれを説明してきたが、今回は経験によって示されたことになる。
 

'08.11.3.朝日新聞・米コロンビア大教授・ジョセフ・スティグリッツさん