散歩道<2603>

                      経済危機の行方・規制緩和と金融工学が元凶(1)              (1)〜(3)続く

 今回の危機は、1929年から39年まで続いた大恐慌以来、最悪の危機であることは間違いない。そして、これは避けられたはずの危機だ。なぜなら、ブッシュ大統領がクリントン前大統領殻政権を引き継いだとき、経済は健全であり、財政は黒字ですらあったのだから。
 ブッシュ大統領が掲げた「思いやり保守主義」は、結局のところ、億万長者にたいして優しい政治だった。億万長者をつくり出すには役立ったが、中流以下の人々には優しくなかった。その結果。米国の人々の生活は厳しさを増した。
 イラク戦争と並んで、これがブッシュ大統領の不人気の理由であり、米国の歴史において最悪の大統領として名をとどめることになるだろう。
 「億万長者への思いやり」というのは、たとえば証券取引委員会(SEC)の委員長に、能力が低く利益相反の危険がある人物をわざわざと採用して、「優しく穏やかなSEC」にしたことが象徴的だ。市場への監督と規制を緩くしたということだ。規制緩和をやりすぎた資本主義は、壊れやすい花のようなもので、自らを滅ぼすような事態に陥ってしまう。
 メルトダウン(融解)的な危機を招いた理由のひとつは、バブルが発生して、それが崩壊したためだ。資本主義の歴史をふり返ると、住宅バブルは古くからあるが、今回はバブルの坂を上っていくときに、「悪魔的なフランケンシュタイン的怪物のような金融工学」が危機を深刻化させた。表現が長すぎるというのならば「金融工学のモンスター」と縮めてもいい。
 そのもとで、信じられないほど厳しい「レバレッジ
(てこの原理を使うように、少ない元手で大きな取引をすること)のやりすぎ」が横行した。そうした中で、人々は自分が何をしているのかが分からなくなってしまっていたのだ。
 グリンスパン前連邦準備制度理事会(FRB)議長が95年ごろから株式市場のバブルに対策を講じなかったことも、惨状を招いた理由のひとつだ。
 これらの背景には、81年に就任したレーガン大統領が力を注いだ「右傾化」がある。レーガンは映画スターとしては悪くなかったが、我々が「極右サブライサイド(供給重視)経済学」と呼ぶ路線をとった。それが、「悪い規制緩和」や「無能な人物の登用」といったブッシュ路線に引き継がれてきた。
 危機の深刻化にはグローバル化も関係している。しかし、なんといっても大きな特徴は、この危機がタイ発やメキシコ発ではなく、米国発だということだ。その原因が、米国で横行した規制緩和や金融工学だった。 
 

'08.10.25.朝日新聞・マサチュウセッツ工科大名誉教授・ポール・サミエルソン氏

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