散歩道<2599>
経済危機の行く方・大恐慌と同じ道たどらない(1) (1)〜(3)続く
米国に住んでいる私にとって、今回の金融危機は、ひとごとではない。私の年金は米国の投資信託で運用されているが、大幅な株価下落で、今月初め、信託資産が3分の1も減った。このまま株価が下がり続けると、来年受け取る年金額が大幅に減る可能性がある。年金に頼らず、自ら株に投資して生活費を稼いでいる米国の知人たちは、もっと大変だ。
それはさておき、歴史学者としては、今回の危機が、80年前の大恐慌と同じ道筋で、国際秩序そのものを脅かすようになるのではないか、と考えがちな点が気になっている。
大恐慌は1992年10月、ニューヨーク証券取引所の株価大暴落をきっかけに、バブル景気が崩壊した。外形的には今回とよくにている。
当時の米国や英国政府は、国際経済の悪化を外国政府のせいにした。てんでばらばらに通貨を下げ、関税障壁を設けた。そして排他的な地域共同体をつくり、そこから締め出されたドイツや日本は、「持たざる国」の論理で、全体主義あるいは軍国主義支配の下に侵略を正当化し、戦争になだれ込んでいった。
結論からいうと、現時点での判断ではあるが、今回の金融危機が、大恐慌と同じような道筋で大規模な国際紛争に結びつくとは考えていない。
なぜなら、当時はなかった国際協調の枠組みが、現在はできている。米国を中心とした先進8カ国(G8)と、それをとりまく新興国家が提携し、政府が公的資金を使って、金融機関に資本注入する政策で、足並みをそろえている。
いま、戦争に訴えて経済問題を解決しようとする国はない。歴史は繰り返す、というのは間違いだ。
国際経済は、かって米国や欧州の一部の国が支配していたが、70年代以降、グローバル化が進み、日本や中国、中東の産油国などが、欧米と争そうだけの力をつけてきた。そうした国々は、国際経済社会で欧米と同じような役割を担うようになった。昔に比べて世界は相互依存的になったのだ。
'08.10.19.朝日新聞、ハーバード大名誉教授・入江 昭氏
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