散歩道<2519>

                 opinion福田首相辞任民主主義わかっていない(1)                (1)〜(2)続く

 福田首相は就任の際、「背水の陣内閣」と自らの政権を名ずけた。背水の陣とは、振り向けば水しかなくて、そこからは下がれない。どこにも行きようが無い状態を指す。相当な決意でこのような言葉を使ったはずなのに、ここで政権を投げ出すのは、言葉の意味がわかっていなかったか、すごく誤解していたかのどちらだろう。
 安倍前首相の辞任から今日に至る流れを見ると、自民党は、政権担当能力がなくなったことを宣言したようなものである。与党である今の体制が変わってしまうことを何とか阻止するためにクビをすげ替えるという思考は、政党の論理の中でしか物事を考えられなくなっている証拠であり、そもそも民主主義というものが分っていない。
 それがダメ押し的に分ったのが、福田首相の辞任会見である。ねじれ国会で野党が協力してくれなくて随分苦労した、というようなことを話したが、野党は反対するために存在する。野党が反対しないような国家体制は民主主義と言えないのに、福田さんは野党への不満を平気で口にしてしまう。さらに会見の最後に、「国民にはひとごとのように聞こえる」と記者に言われて、「あなたとは違う」と気色ばんだ。これも、権力者を「いじめる」ために存在するメディアの位置ずけ、役割を理解していない発言である

 安倍前首相も福田首相も、常に「周りが悪い」という反応をみせ、民主主義はどのように機能するものなのか、全くわかっていなかった。それは、自民党が、真剣な言語的勝負の世界に身を置いたことがない政党であるらだ。派閥均衡による「共栄」を重視し、相対するものが徹底した議論によって決定的にぶつかることがないように政党を作ってきた。便宜的な部族連合みたいなものである。そうした中から、本物の「背水の陣」は生まれてこない。
 

'08.9.3.朝日新聞・同志社大学教授・浜 矩子さん

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