散歩道<2317>

                         経済気象台(321)・現代の姥捨て物語

 年功序列や終身雇用は長い間、我が国の労働慣行だった。しかし90年代のバブル経済崩壊後、日本的な習慣はことごとく否定され、実力主義、成果配分、年俸制などが企業経営に導入された。
 実力主義という名の下での給与カットや終身雇用の廃止は、利用するだけ利用して使い捨てる「姥捨て山」の伝説と、どこが違うのか。成果配分にしても年俸制にしても、すべて経営側の都合による経費節減システムだ。
 毎年実績を評価し、給与と待遇が決る。熟年社員は年齢を理由に定年退職を迎え、企業は若返って人件費が圧縮される。一見合理的な近代経営が中高年労働者から希望を奪い、若い労働者から企業への帰属意識や仕事に対する使命感を奪っていないか。
 18歳の新人社員と60歳のベテラン社員への支払い賃金を比べれば、数倍の格差がある。しかし、人間の能力は単一ではなく,機械のようにカタログ値では判断できない。新人社員の3倍以上の給与を取る熟年社員だが、その生産性は4倍以上だ。
 ともすれば、企業経営者は損益計算書が示す人件費という項目にのみ関心を奪われ、肝心な人間の生産性を見落としてしまう。業務のすべてを理解し、最も高い生産性を発揮し、企業に大きく貢献する年齢は50〜60歳以上だ。
 人件費という経営の圧縮と同時に、生産性まで圧縮してしまう定年退職制度。人件費を単に経費と考えて熟年社員を切り捨てると、生産性も技術も失い、企業は急速に競争力を失うことになる。
 本格的な国際競争の時代。いつの間にか忘れてしまった日本的な経営理念と慣行をいま一度、思い出す必要があるのでないだろうか。

'08.4.1.朝日新聞

関連記事:散歩道<検索>仕事