散歩道<2258>
バーミヤンに最古の油絵・7〜10世紀、高度な技法
アフガニスタンの世界遺産バーミヤン遺跡にある壁画には、極彩色の仏が描かれ、インドやペルシャなどからの影響をにじませている。だが文献資料がほとんど残っておらず、その材質や技法についての詳しい分析は、これまでほとんどされてこなかった。だが、東京文化財研究所が壁画を化学分析したところ、7〜10世紀の油絵であることが分った。
同遺跡では、イスラム原理主義勢力タリバーンの手によって、大仏とともに壁画の8割ほどが破壊された同研究所は03年から調査や保存の活動を現地ではじめ、壁画については谷口陽子研究員(保存科学)が約50の石窟から取った史料3点を調べた。これまでの研究で顔料などは部分的に分っていたが。谷口さんは壁画を下から、キャンパス、目止め層、下地層、彩色層、上塗り層に分け、層ごとの成分に着目した。彩色層を赤外分光法などで分析したところ、顔料を溶かし固定する膠着材として19点に油が使われていることが判明した。壁画は7〜10世紀ののものであることが放射性炭素年代測定*1で判明しており、油絵の技法が用いられた例として確認された中では「世界で最も古い」という。さらにガスクロマトグラフィー質量分析で、クルミやケシから取れる油に近いことも突き止めた。いずれも中央アジアで広く食用とされ、古い文献に登場する植物が原料だ。この時代のヨーロッパの絵画といえば、色のついたガラスや大理石などを使うモザイク画、油絵の期限はよくわかっておらず、15世紀になってヤン・ファン・エイクがクルミ油などで顔料を練り合わせて使い、本格的に始まったとされる。バーミヤンの絵画技法の水準の高さがうかがわれる。また、牛海綿状脳症(BSE)の検査などに使われるエライザ法で目止め層を分析すると、牛などの動物の膠(にかわ)の可能性が高いと分った。写真撮影で使うレフ板のように、白の顔料を緑とオレンジの間に挟むことで、全体の色調に鮮やかさと深みをもたらす技法も採られていた。谷口さんは、中国・敦煌の石窟群や中央アジアの壁画についても分析する予定で、「バーミヤンの絵画が文化的にどうミックスされて成立したのか解明したい」と話している。米国やフランスの施設を駆使した、今回の複合的な分析法は、謎の多いバーミヤンの絵画の壁画のみならず、絵画史全体の研究の幅も広げそうだ。
'08.3.5.朝日新聞
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備考:ここに説明されている器機*1については<2216>の遺跡展で写真で見ることが出来る。