散歩道<2246>
経済気象台(289)・無責任なアドバイス
米国の有力経済紙を読んでいたら、「日本では非正規社員の増加が経済成長を阻んでいる」という記事が目に留まった。1990年代末以降の規制緩和によって非正規社員が急増したこと、それによって企業は固定費を削減できたが、労働者は不安定かつ低賃金の仕事を甘受しなければならなくなったこと、などが書かれていた。それ自体は恐らく、正しい指摘だ。しかし筆者は米国のメディアがそのような記事を書いたということ自体に、強い違和感を覚えた。それは彼らが90年代の長期景気低迷の折、「日本が終身雇用や年功序列賃金など硬直的な労働慣行を改革し、米国のように柔軟な労働市場を実現することが、景気回復を可能にする」と言っていたことと相いれないからだ。今から思うと、当時の米国人のアドバイスには、的外れのもの、副作用が大きすぎるものが少なくなかった。公共投資を追加しても景気が回復しないのは、金額が足りないからだ、もっと大胆な景気刺激策を実行せよ。金融不安が消えないのは、不良債権を抱えた大銀行を破綻させずに延命を図っているからだ。デフレが続くのは、日銀が金融を引き締めているからだ、日銀は量的金融緩和を躊躇(ちゅうちょ)するな・・・・。
その米国が今、大胆な対策をうたねばならないほど、厳しい信用不安と景気後退におびえている。やがて米国は不況対策として、財政支出の拡大や大幅な利下げを行うだろう。しかしそれで米国経済がすぐに健全化すると考えている人は多くない。大手金融機関の経営が不安視されるようになれば、市場における買い支えや潤沢な流動性供給などの支援策がとられることになるだろう。しかし、大手銀行を破綻させよといった議論は出てこないはずだ。米国が日本に対して行った無責任なアドバイスの実効性を今度はアメリカ自身が検証する番だ。
'08.1.19.朝日新聞