散歩道<2174>

                                時の肖像・キュービズム100年(1)           (1)〜(4)続く
                             「時の古層」に宿る原初の美

 地下鉄を降りて、坂道を上る。幾つかの角を曲がると、マルニエの葉の茂る小さな広場に出る。その先に、古めかしい建物が現れた。「洗濯船」かってこうよばれた。パリ・モンマルトルの丘の伝説的なアパート兼アトリエの跡だ。「バトー(船)ラボワール(洗濯場)」という不思議な呼び名は、外観がセーヌ川に浮かぶ洗濯船を思わせたからとも、誰かが建物の中の洗濯ひもを見てつけたとも伝えられている。今では観光客が絶えないこの一体は、19世紀の終わりごろまでは羊が草をはむ空き地だったという。ふもとには公園があり、田舎道にが続く。そのひなびた景色が、社会の枠に収まらない画家たちを引き付けるようになる。その中に、スペインから来た若いピカソが居た。20世紀の初頭に入居した彼は、キュービズム(立体派)の時代を切り開く「アビニヨンの娘たち」を、ここで描く。100年前の1907年のことだった。

参考図書:ペンローズ・「ピカソ」、ワルノー「洗濯船」、マルロー「黒耀石の頭」、「イサム・ノグチエッセーと会話」、アシュトン「イサム・ノグチ」

'07.10.22.朝日新聞・論説顧問・高橋 郁男氏


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