散歩道<1963>
経済気象台(221)・火宅宰相
「火宅」という言葉からは、放蕩(ほうとう)無頼の生活を送る「火宅の人」を思い浮かべる人が多いと思うが、本来は法華経の比喩(ひゆ)品という経文にある『事栄えある。その比喩とは、猛火に包まれながらも目先の遊びに夢中になっている子供たちを、豪華なおもちゃをあげるといって戸外に救いだすというもので、魂の救済を表している。わが国は危機的な在世状況に加え、無能無策な外交、公共政策の失敗のみならず官製談合、裏金問題などの官僚腐敗で、まさに火宅国家というべき状況にある。国民経済は、企業・家計・政府の3部門から構成されるが、家計部門は1500兆円もの資産を有し、企業部門は業績が絶好調にある。ひとり政府部門がこけているのである。ここに至った原因たる政府の失敗は、1人当たりで破綻した夕張市の2倍に達する公的債務に端的に現れているが、官僚は消費税などの増税や給付削減で帳消しに出来ると考えており、与党政治家は選挙で失業の危険があるのでタイミングを計っている。教育まで崩壊させてしまったこの国は、ブータンのように国民総幸福量*1(グロス・ナシヨイナル・ハピネス)を増大させ「三界火宅」を脱して精神の解脱を目指す世界とは対極にある。偽装、格差、イジメに満ちた現代日本に精神の浄土を求めえないとすれば、せめて世界第2位の民力を失うことなく、国家部門だけの破綻処理として欲しいものである。首相は「美しい国」などという抽象度が高い標語の下で国家主義的な施策を進め、また再びの道へと導こうとしているが、次々に噴き出る閣僚のスキャンダルで足をすくわれ支持率は急落してしまっている。この首相は官僚の策謀に踊らされ、わが国の混迷を深めるだけの「火宅の人」か、国民に安心・安全を保証する「火宅解脱の仏」なのかを、国民は息を凝らして見つめている。
'07.2.15. 朝日新聞
備考:散歩道<494>*1幸せ大国目指して・成長主義の功罪・ブータン