散歩道<1950>
経済気象台(215)・「分かりやすさ」のわな
金融市場では8月の利上げはほぼ織り込まれているが利上げに関するエコノミストの評論や新聞の社説を読むと「日銀の説明責任が問われる」「日銀は国民にもっとわかりやすく説明すべきである」という言葉で締めくくられることが多い。確かにその通りではあるが、具体的に何をどう説明することが「分かりやすい説明」なのかは明らかではない。インフレが高まるというのは最も分かりやすい説明だろうが、目先1年ぐらいであれば、その可能性は低い。2〜3年先であれば、インフレが高まるというのは常識的な予測であろうが、そうした予想を出したからと言って、分かりやすくなるものでもない。「分かりやすい」論者は、結局、ゼロ・インフレ下での利上げは分かりにくいと主張しているのだろうが、本当に分かりにくいのだろうか。日本以外で低イフレ国・地域を挙げると、イスラエル(マイナス1.3%)を別にしても,台湾(0.1%)ノルウエー(0.3%)スイス(0.5%)と、少なからず存在するが、3ヶ月物金利は最も低い台湾でも2.5%である。インフレターゲットを採用しているノルウエーを含め、これらの国の金融政策は決して現在の物価上昇率にリンクされているわけではなく、中長期的な経済の安定が重視されている。一方、利上げに対する素朴な支持論も多いように見える。年初の利上げ論議に比べると政治家による利上げ牽制論が少ないのも、数年前に比べて日本経済が明らかに回復している中で、ゼロ近辺の金利が続くと、どこかで歪みが生まれるという企業経営者や国民の受け止め方を反映しているのだろう。いずれの考えか方が分かりやすいのかは論者によっては異なるだろうが、金融政策を専ら「分かりやすさ」という、見え方の次元で議論することからはそろそろ卒業したい。
'07.7.19.朝日新聞