散歩道<1929>

                       定義集「小説家が大学で学びえたこと」(3)              (1)〜(4)続く
                          アマチュア知識人の大切さ

 フランス文学科で先生の講義を聞いたことは、青春の最良の経験ですが、そこから専門研究に進む力は私にありませんでした(きみの卒論に、Bをつけました、と先生は愉快そうに言われたものです)。そこで私は小説を書くことにしましたが、学部で身についたフランス語、英語を読む習慣は続けることにし、先生から、長期にわたる読み方のヒントをもらいました。
 先生の最晩年の言葉をおもいだします。1975年2月、渡辺一夫改訳のラブレー作『ガルガンチュワとパンタグリュエル物語』
(岩波文庫)が完結しました。書店が内輪のお祝いの会を催し、出版への成り行きに少しお手伝いした私も呼んでもらいました。
 その会で誰もが気にかけていたことを、一番年少で軽薄かつおしゃべりの私が口にしてしまったのです。
 ・・・・体調がよろしくないのであれば、ずっと注意深くされてきたのですから、仕事を休まれて、病院で検査なさってはいかがでしょう?
 ・・・・病院に行けば、致命的
(ファタール)だ、といわれるでしょう。そこで参照する本のある家で、最後までやります。
 

'07.6.19.朝日新聞・作家・大江健三郎氏  

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