散歩道<1905>

                          経済気象台(200)・率直な対話

 安倍政権は参院選挙で大きな痛手を受けた。野党から様々に政策の修正を迫られるととに、自民党内の結束にも亀裂がはいっている。その建て直しの軸はなんであろうか。小泉政権は郵政改革を突破口に自由競争原理を徹底する改革で新しい局面を開いたが、その一方で、「何のための改革か」は曖昧だった。これに対して安倍首相の「美しい国づくり」の提唱は経済的利益が偏重され価値不在となった過去を見直し政策の中心に日本だからこそ果たせる価値の実現を据える意志を明確にしたという意味では、大切な歩み出しだった。しかしその後の官僚スキャンダルや年金記録の問題など目前の対応や選挙対策に迫られてきた。また、この新しい国づくりが、経済のかじ取りのどんな方向づけにつながるのかの道筋もまだあいまいである。しかし、経済が長い停滞を脱却し、世界のパワーバランスもかわりつつある今、21世紀の世界に役立つ日本のアイデンティティーを未来からの視点にたって確立することは必然の事だと思われる。しかしその一歩を踏み出すには、まず経済界との対話ももっと深めてゆく必要があろう。グローバルな競争の中で、当然とされてきた労務費の提言も、当面の企業収益に役立つ半面、長い目で見れば労働の質の低下につながる。よく働き、業績が上れば所得が増え、経済も発展し社会のお役に立つ、という道筋が見えなくなったのは、働く人々の生きがいにとっての打撃であり、人心の衰退にもつながることである。そうした問題の核心に道を開くには、互いに政治家である前に、また経済人である前に、一人の人間として、何を本当に大切にするのかを基とした突っ込んだ対話が必要である。そうした率直な対話をくにづくりの原点とすることは、変わり道のようだが、国民の信頼の回復にもつながる確かな道だと思われる

'07.8.4.朝日新聞