散歩道<1904>
経済気象台(199)・本当の改革
「子供を生む機械」という不適切な発言の行方はともかく、容易ならぬスピードで進む少子化への有効な対策はまだ見えていない。育児手当や保育施設の充実なども重要だが、問題の根はもっと深い。少子化の原因は様々な側面で絆(きずな)が切れ、人々が根をおろせる場所を見失ったこと、そのために未来への希望が持てず、絆を次第に伝承したいという意欲が全体に弱まっていることにあるとおもわれる。その背景には戦後の経済発展の中で急速に進んだ核家族化や農村から都市部への人口の移動がある。その中で自然や家族との絆(きずな)が希薄化し、自己中心で経済的な利益を価値の尺度とする風土も広がってきた。その結果が学校でのいじめや自殺の多発,また親子、夫婦の間で頻発している殺し合いなどの痛ましい事態にも現れている。また、教師が児童への加害者になったり、県知事のような重鎮が次々と逮捕されたり、大手企業の反社会的な事件が続く状態は社会の秩序感覚をゆがめ、教育にも悪影響を与えている。このような環境の中では、子供をつくるよりも自分たちの生活やキャリアを守りたくなる、という実態は変わりそうにない。そのままでは経済もこれまでの繁栄を続けられる保証もない。新興諸国の活力に対比して国民の資質の衰え、連帯感の弱まりはやがて競争力の不連続な劣化にもつながる。しかし、この壁を打開する鍵がないわけではない。トヨタのカンバン方式の生みの親といわれる大野耐一氏が大切にした「五つの何故」に倣い、例えばなにのための経済・経営か、教育か、と問い続け、問題の根本に立ち返って立て直す道はあるのだと思う。そこで浮かび上がるのは「人間であることの意味や生きがいの回復」という共通のテーマだろう。社会の痛みが極まった今求められているのは、そうした基本を大切にした本当の改革ではないか。
'07.2.6.朝日新聞
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