散歩道<1886>

                             経済気象台(198)・資本コスト

 経営者が意思決定を行う際、何が最も重要な判断基準かと言えば、資本コストすなわち、株主の要求する最低水準のリターン以上の収益を上げることができるかという基準であろう。投資のリターンが資本コストを下回る企業の株価は下落する。余剰資金を抱え低金利での運用を続ける企業は、買収の危険にさらされる。日本の企業がユーロ市場で発行した大量の転換社債による資金調達を「無コスト」資金と認識下のはバブル期のことだが、最近では資本コストに対する意識は全体として高まっている。しかし、懸念すべきことも多い第1に、資本コストへの意識は企業によって大きな差異がある。外国人株主比率が高くグローバルに事業を展開している企業では資本コストに対する意識は高いがグローバルな競争にさらされていない企業の意識は高いとは言えない。地方の第三セクターなど公的企業に至っては、そうした意識はほとんどゼロである。グローバル企業でも、最近の株式持合い強化の動きのように、資本コストへの意識という点では気掛かりな動きも見られる。第2に、低金利によって「目線」も下がっている。資本コストは金利だけでは決らないが、低金利政策によって金利商品と代替的な商品のリターンもさがっているため、投資家の要求リターンも低下する。特に、日本は個人金融資産に占める現預金が半分以上を占めることから、資本コストの水準という点では、低金利の影響は大きい。この結果、日本の企業は外国の企業と比較すると、要求リターンの低い株主の目線に合わせて行われることになる。需給ギャップも解消した今日、日本経済にとっての大きな課題は生産性の向上であるが、これは結局、非効率な投資をやめ、効率的な投資を行うことによって実現する。資本コストは今後の日本経済を考える上でのキーワードである。

'07.4.19.朝日新聞