散歩道<1885>
経済気象台(197)・格差の不思議
年金記録の不備や介護事業の不正の前にかすんでしまったが、格差の拡大が大きな関心事項、重要な政策課題であることは疑いない。それにもかかわらず、格差拡大の実態から要因、対応策に至るまで、分からないことが多すぎる。例えば、技術革新への適応力の差が所得格差を生む最大の要因であるとの指摘がある。だから、より高い教育を受けることが、スキルや適応力を高め、より多い所得をもたらすと考えられてきた。しかし、マサチューセッツ工科大学の教授による最近の研究によれば、学部卒業生の所得の伸びは経済全体の生産性の伸びを下回っているという。つまり、教育レベルを高めても、かならずしも「勝ち組」にはなれない、言い換えれば、ハードルはどんどん高まっているということだ。一方で、カネと格差の関係が論じられていることは少ない。M&Aや不動産投資、ITビジネス、規制改革関連ビジネスなど、高い収益が見込める分野には、投資銀行やファンドから巨額の資金が集まり、事業の当事者は多額の報酬を得る。そしてそれら投資資金の元をたどると、企業の余剰資金や低金利下で「貯蓄から投資へ」の動きを強める1500兆円の個人金融資産、日本に投資機会を見いだす海外のファンドや投資銀行、彼らにお金を貸す銀行の存在が浮かび上がる。つまりあり余るおカネが格差を拡大させているのかも知れないということだ。このように、格差の拡大の要因ですら実のところよくわかってはいない。この四半世紀にわたり格差が大きな政策課題であり続け、エコノミストによる実証研究の厚い蓄積があるアメリカでも、格差論議はなお尽きない。だとしたら、「景気回復が続けば格差は縮小する」といったお粗末な議論や再チャレンジ政策で格差拡大が止まるといった根拠なき政策でお茶を濁すことは、真実を覆い隠すことになる。
'07.6.14.朝日新聞
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