散歩道<1882>
経済気象台(194)・「巧みの技」の虚実
我が国には、江戸時代から続く「巧みの技」や「物作り」の伝統文化がある・・・・・。最近、政府関係者や経営や技術文化論の専門家らがよく口にする文化論だ。耳障りはいいが、これこそ日本人の陥りやすい間違いだ。現在の技術は「職人技」などからではなく、ほとんどは先進的な設備から生み出される。「巧みの技」「物作りの伝統」で競争で勝つなどというのは、ともすれば第2次大戦時の「大和魂」と同じことで、近代的製造業の現場では役に立たない精神論でしかない。先の大戦に負けた原因は設備の規模と設備の性能の違いだった。強大な規模の米艦隊、米空軍。ものすごい破壊力を持った新型爆弾。設備の規模と性能に圧倒されたのだ。歴史を振り返るまでもなく、文化論のような精神論は、製造業がさらされている国際競争においては、役にも立たないことを理解すべきでだ。戦後、我が国の製造業が、アメリカを追い越すことが出来た大きな要因は設備の近代化であり、物作りの伝統や、巧みの技だけではなかった。戦後すべて新しい近代的設備でスタートした我が国の製造業。一方、戦前から古い設備で、そのまま国際競争を行ったアメリカ。その勝敗の結果は、貿易収支がはっきり物語っている。近代工業の技術競争は巧みの技ではなく、設備のレベルと規模の戦いだ。数十年の歳月をかけて学んだ技術も、今やIT新しい技術の出現で、1年を経ずして名人の域へ到達してしまう。これがこの時代の技術の恐ろしさなのだ。最高の性能を備えた高品質の製品を世界の市場へ供給する。これが現代の製造業の姿だ。そこには昨今取りざたされているマネーゲームにはない、素敵なロマンの追究こそ我が国の伝統だ。この流れを断ち切らないためにも、現実を見据えた議論をして欲しい。
'07.8.1.朝日新聞
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備考:伝統の巧みの技術を生かす道は必ずあるはずである。広告と営業政策が必要になると思うが、