散歩道<1881>
経済気象台(193)・「へえー」と「なるほど」
何年ぶりだろうか、高校球児の一投一打に固唾を呑んだ。そして、長い戦いに決着がついた瞬間、目頭に暑いものを覚えた。私と同じ体験をした日本人は決してすくなくはなかったであろう。その日を境に、1人の高校生が脚光を浴びている。甲子園の優勝投手になったことが彼の人気の最大の理由である。しかし、それだけではおそらく女性を含め野球に詳しくない普通の人たちを巻き込んだ騒ぎにはならなかっただろう。異常な人気の背景には三つの意外性=「へえー」と誰にでもわかる「なるほど」があった、と考えられる。一つ目の「へえー」は、決勝の延長15回戦を含め4日間連続の完投を成し遂げたのが、野球選手とは思えない普通の体格の高校生であったという意外性である。二つ目の「へえー」は、彼が汗臭いスポーツ選手にはおよそ似つかわしくない、ポケットからハンカチを取り出し、汗をぬぐうイケメンの若者であったという意外性である。三つの目の「へえー」は、話題の兄弟ボクサーに代表されるように、「近頃の若者は生意気だ」というイメージとは異なり、彼が礼儀正しく、受け答えのしっかりした若者だという意外性である。そして、三つの意外性=「へえー」が、野球を知らない女性にも「なるほど」と思わせるわかりやすさで構成されているという点である。豊かさを実現した今、生活者にとって、世の中に生み出される多くの商品や情報は大方予想できる。だから日常、私たちはあまり驚くことがない。一方で、ITの進化は私たちを取り巻く情報をより高度に、複雑なものにしている。そんな時代だからこそ、「へえー」と言わせる意外性と、関与度の低い人にも「なるほど」と思わせるわかりやすさが、多くの人を動かす力を持つ。企業の商品開発やマーケッティグ活動にも共通する、価値を高める演出の一つである。
’07、朝日新聞