散歩道<1837>

                           経済気象台(176)・多様性の喪失

 人口大都市圏集中が進んでいる。1990年代後半、東京圏・名古屋圏に移り住んだ人は累計100万人に達するという。経済学者は、日本経済の成長、効率化にとって望ましいという。確かに大都市には、ITなど成長性に富むサービス業が集積し、豊かな雇用機会と所得を提供している。一方、地方は、農業や建築業に対する依存度が高く、世界的に著名な大企業も少ない。そこで、ヒト、モノ、カネの大都市集中を進めるとともに、従来地方に再配分されていた所得を大都市圏のインフラ整備などに充当すれば、成長力や効率性の向上に寄与するとの議論が出る。しかし、より長期にわたる日本経済・社会の持続性を考える時、大都市圏への一極集中がはたして望ましいのか、さまざまな疑問がわく。90年代のグローバリゼーシヨンや技術革新の経験が示すように、一国の経済を引っ張る産業やそれを支える技術と人材、環境は大きくかつ急速に変化する。それに柔軟、迅速に対応出来る経済資源が、大都市圏にすべて備わっているとは限らない。例えば、優れたモノづくり技術を持つ中小企業の多くは、優秀な人材と長い間の技術の蓄積、関連企業の集積。低いコストと働きやすい環境があるからこそ、地方に立地している。長期経済発展を続けるアメリカの強みは、多様な地域がそれぞれの強みを競いあっているところにある。成長を牽引(けんいん)する地域も、環境変化に合わせて、東海岸、中西部から、西海岸、南部、山岳地域へと次々と移って来た。経済資源がニューヨークに集中したら、アメリカの発展はなかったろう。生物が、環境変化の下でも種が存続できるように多様性を獲得したのだとすれば、経済にもそれは必要だ。地方にペンペン草を生やすことが日本を良くするとはどうしても思えない。

'07.5.15.朝日新聞

備考:'08.4.18の朝日新聞では、首都圏3県で全国の人口の10%を占めるようになったという記事がある。