散歩道<1780>

                       経済気象台(165)・円安が損なう国益

  円安が進んでいる。対ドルではこの1年ほどで1割も下落し、対ユーロでは最安値を再三更新している。円の実質実効レートは1985年9月以来の安さとなった。なぜ円安なのか。人口減少に伴う成長鈍化の懸念、構造改革の遅れなどが指摘される。しかし、日本経済は戦後最長の景気拡大を続けているし、海外投資家は日本株を積極的に買っているから、日本に対する悲観論が背景にあるとはおもえない。とすると、主因は日本の低金利、内外金利差の拡大に落ち着く。海外では、景気拡大やインフレ懸念を背景に政策金利の引き上げが続き、最近では、長期金利も上昇に転じている。いっぽう、日本の政策金利は、なお0.5%という景気回復とは不釣合いな低い水準にとどまっている。そのため、キャーリートレードや、投資信託などを通じた個人の海外投資が拡大し、円安を引き起こしている。それは、金融緩和を強く主張してきたエコノミストが望んだことでもある。金融緩和によって円安が進めば、輸出が拡大し輸入物価が上昇し、景気やデフレが改善する。実際、輸出企業の収益は拡大し、日本経済の大黒柱となっている。しかし一方で、円安は日本の経済資源の利用効率を下げ、資産を安売りするということでもある。円安で交易条件は悪化し、輸出や生産のために、より多くの経済資源を投入しなければならなくなっている。また、海外のファンドや企業が、割安となった日本の企業や資産を買っている。その結果、長年にわたって営々と積み重ねてきた技術や経験の蓄積が、それを担ってきた従業員とともに切り売りされる懸念も高まっている。それが、日本の低すぎる金利がもたらした歪みにもとづうものであるのだとすれば、円安は短期利益と引き換えに、日本の長期的な国益を損なうものといえないだろうか。

'07.6.29.朝日新聞