散歩道<1705>
社説21提言・日本の新戦略(17)-2・9条の歴史的意義・日本社会がつくりあげた資産 (1)〜(3)続く
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9条を今日の視点でみると。大きく言えば四つの歴史的意義がある。第一に、日本が再び戦争に直接かかわるのを防いだことだ。むろん、日本を巻き込むような大戦争がおきなかった幸運があってのことだが、自衛隊が韓国軍のようにベトナム戦争へ派遣されることもなかったし、防衛費の規模も押さえ気味にできた。60年の間、この原則が貫かれたことで「戦争には加わらない国」「軍事力で何かを押し付けることはしない国」という、ユニークな平和ブランドを国際的に築くことが出来た。第二に、9条のおかげで戦後社会から軍国主義が速やかに姿を消したことだ。戦前のような軍事優先の価値観ははっきりと否定された。徴兵制もなければ、秘密の軍事裁判もなくなった。それは戦後社会における批判の自由の支えにもなった。「軍事」が幅をきかせた戦前・戦中の日本では、法案を審議中の国会で、説明員の軍幹部が議員を「黙れ」と一喝したり、軍を批判した議員が除名されたりしたことがあった。9条は「戦後日本の安全弁」である。と憲法学者の樋口陽一さんは言う。第三に侵略戦争と植民地支配という負の歴史への、反省のメッセージとして9条は国際社会に受け止められた。あの過ちを振り返さないという、国民の真摯な思いがよみとれたからこそ、戦後の日本と日本人への信頼を取り戻すことができた。まだかこの傷の癒えない人々が近隣諸国にはいる。戦争や植民地を経験しなかった世代にも、記憶や歴史は引き継がれていく。9条でメッセージを発し続ける意味は今も失われていない。
'07.5.3.朝日新聞