散歩道<1634>
鶴見俊輔さんと語る(4)・心に届かぬ言葉横行 対談相手・詩人アーサー・ビナードさん
(1)〜(4)続く
「考える日本語」の散文選を作るのが僕の理想。(鶴見)
ビナード ドブさらいですか(笑い)。ぼくにとって日本語の散文の師の一人が作家の小沢信男さんです。小沢さんは町の見つめ方、題材との距離のとり方が素晴らしい。
鶴見 それは俳諧の手法ですな。彼は俳句もうまいし、当代随一の書き手です。花田清輝(文芸評論家)が彼を最初に認めたんだ。
ビナード ナンシー関さん(消しゴム版画家1962-2002)もぜひ散文選に加えたい。大衆芸能をネタにしたコラムは、本来は消費期限付きのナマモノですが、彼女の文章は残ります。取り上げたタレントやテレビ番組が忘れ去られても、分析が鋭く、本質を突いています。
鶴見 女性で言えば、大逆罪で捕まった金子文子(無政府主義者)の獄中手記にもびっくりした。「人生で自分が経験したことは、どこかに残る。其のことを自分は信じる」という趣旨の文章を読んで、哲学者ホワイトヘッドの最終講義を思い出した。見る力のある人は同じことを言うんだ。
ビナードさんは東京商店街で、魚屋や八百屋の中に入って対話をしながら言葉をくみあげているから、日本語が生きてるね。
ビナード もちはもち屋、魚は魚屋、魚関連の言葉も魚屋で覚えるのがいい。スーパで買えるのは魚の死体だけ。秋の日の夕方、魚屋の店先でおかみさんと話をしながら買うから、生き物としてのサンマが見えてくる。コンピューターが意味のある言葉を発することができないのは、生活していないからだとおもう。コンピューターは猫を抱いたことがないし、豆乳も牛乳も飲まないからね。
鶴見 我々が言葉を習うのは母親からだが、明治時代に漢訳仏教の用語を受け皿にして西洋の学術を日本語に移し替えたとき、女性の言葉や言い回しを排除した。それを元に戻し、考える日本語の散文選を作るのが、ぼくの70年来の理想だ。それをビナードさんに託したい。
'07.1.30.朝日新聞・鶴見俊輔さんと語る・詩人アーサー・ビナードさん
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