散歩道<1616>

                    私の視点・医学生へ・医学を選んだ君に問う(2)            (1)〜(2)続く 

 医師国家試験の不合格者はどの医学校にもいる。全員が合格してもおかしくない医師国家試験に1、2割が落ちるのは、医師という職業の重い責任の認識の欠落による。君自身や君の最愛の人が重病に陥ったときに、勉強不足の医師にその命を任せられるか? 医師には知られざるは許されない。医師になることは、身震いするほど怖いことだ。最後に君に願う。医師の歓びは二つある。その1は自分の医療によって健康を回復した患者の歓びがすなわち医師の歓びである。その2は世のため人のために役立つ医学的発見の歓びである。
 今後、君が懸命に心技の修養に努め、仏のごとき慈悲心と神のごとき技を兼備する立派な医師に成長したとしよう。君の神業の恩恵を受ける患者は何人に達するのか?1人の診察に10分の時間をかけるとしよう。1日10時間、1年300日、一生50年間働くとすれば述べ90万人の患者を診られる。多いと思うかもしれない。だが日本の人口の1%未満、世界の人口の中では無視しえるほど少ない。
 インスリンの発見前には糖尿病昏睡の患者を前にして、医師たちは為すすべがなかった。しかしバンチングとベストがインスリンを発見して以来、インスリンは彼らが診たことがない世界中の何億人もの糖尿病患者を救い、今後も救い続ける。その1の歓びは医師として当然の心構えである。これのみで満足せず、その2の歓びもぜひ体験したいという強い意思を培って欲しい。心の真の平和をもらすのは、富でも名声でも地位でもなく、人のため世のために役立つ何事かを成し遂げたと思える時なのだ。

'02.4.16.朝日新聞・前金沢大学付属病院院長・河崎一夫氏

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