散歩道<1411>

                          経済気象台(98)・ぼかし装置

 日本人の多くが中流をめざしていた時代があった。憧れのクルマや家電製品が自分でも買える時代がやってきたと、大型消費に走った。それはクルマなどにとどまらず、一戸建やマンションなどの分譲住宅消費まで広がった。さらに、バブル景気が拍車をかける、数多くの普通の日本人が海外に旅行に出かけ、海外高級ブランド商品を買いあさった。多くの日本人が暮らしの豊かさを実現した背景には、様々な装置が働いてきた。バーゲンやアウトレットは、多くの日本人に商品の可能性を広げた。又、海外旅行も、格安チケットの出現によって大幅に増加した。一方、かって月賦と呼ばれたローンは各種の幅広く活用できるようになった。今では、クルマや住宅だけでなく、家電製品や日常商品もローンやクレジットカードで買うこと珍らしくない。ところで長期ローンという装置は、個人が将来に稼ぐ所得も見込んだ、ある意味、実力以上の消費力を日本の生活者に与えた。このことは日本の成長期とあいまって、日本人の暮らしのゆたかさの実現を急加速した。そして、他の装置と同様に、日本人の中流の夢の実現を支える一方、日本人の中の経済的な格差をぼやかしてきた、といえる。ローンで買った車もセールで買ったバッグも、本人にしかわからない。景気が回復した。しかし、いまだ将来に不安を持つ日本人が多いなかで、今までのように、多くの日本人が長期ローンによって将来の所得も見込んで大型消費に走るとは、考えづらい。将来への不安がぬぐえない以上、格差を見えにくくしてきたぼかしの装置の一つが機能しにくくなる可能性は高い、一部には、今の豊かさを維持するために、シェアリングや、リュースに向かう生活者も増えるだろう。しかし、世間が危惧を抱いている格差が鮮明になる時代は少しずつ顕在化する。

'06.3.1.朝日新聞

関連記事:<索>面白い話・言葉・”ぼかし”Microsoft OfficeのWord2007、の中ではこの言葉は世界共通語である。「描画・ツール」・(図形の効果)の中で、影、反射、光彩、ぼかし、面取り等の中でちゃんと組み込まれた機能なのである。旨く世の中の流れに”ぼかされ”続けて、今日まで築かれ続けた強い日本ではあったが、空気が澄んで世界全体が見えるようになってくると、政治や、原子力問題等、いろんな分野で本当にこのままの状態で前に進んで行って大丈夫なのかと心配になる。ひょっとして”ぼかしの”中で何も知らない方が幸せだったのではないかと思わないようであってほしい。2012年7月14日