散歩道<1404>

               鶴見俊輔さんと語る・国家を超え生きる流儀 (4)  対談相手医師・中村哲さん       (1)〜(4)続く
       
 鶴見 最初に活字になった私の著作は、戦時中、ジャワで、軍施設を擬装するのに役立つ植物について書いたパンフレッドだった。植物園で話を聞いてまとめ、種、苗木と一緒に太平洋の島々に散在する海軍の部隊に送ったら、とても役に立つと喜ばれた。日本兵士は農家出身が多かったから、ちゃんと育てる技術を共有していたんだ。
 中村
 
根っこのあるナショナリズムもそれに近い何かがあるのでしょう。意識せずに人が共有できる何かが。
 
鶴見 大切なのはマニュアルではなく、自分の身についた行為である。「しぐさ」「作法」を共有し、伝承することだ。大岡祥平の小説「俘虜記」の主人公の日本軍兵士は米兵を見たが、撃たないと決めた。兵士の作法としては間違いだったが、人間の作法に戻っている。「人を殺さない」というしぐさはづっと続く。そこに戻らないと今の状況は抜けられない。もし日本の国としての民主主義が崩れることはあっても、小さな、数十人の集団のなかだけでも民主主義を守り続けたい。最後まで妥協せず、民主主義を維持する。そういうしぐさの人間として生きる。
 中村
 「殺さない」ということの一つの結実が憲法9条だ。9条を壊すことは日本の良心を壊すことになる。戦争を次ぎつぎにしないと成り立たないような、自然を相手に汗水たらして働く人が損をするような社会は長続きしない。いつか崩れるだろう。ただ、現地で逞しくなっていく日本の若者を見ていると、再生能力は引継がれていくと思う。お天道様に恥じず、まっとうに生きていれば破局を怖がることはない。平和とは、繁栄や安全を生み出す積極的な力である。私たちはもっと自信を持つべきだ。
  
      
'06.11.28,朝日新聞

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