散歩道<1393>
時を読む・新たな建前は生まれるか(1) (1)〜(3)続く
近年、人はそれぞれ何を基準にしているのか、改めて考え込む機会が増えた。現代の日本人は総じて物おじや遠遼とは無縁になり何ごとにおいても自分の希望や意見をはっきり表明しようとする。歯に衣きせぬ物言いが歓迎され、相手をおもんばかって慎重な表現をしたり、正確を期すために迂遠を(うえん)を承知でああでもない、こうでもないと言葉を連ねるのは敬遠される。かくして単刀直入な本音トークなるものが家庭から国会までを席巻しているのだが、その結果あちこちで目と耳を疑うような場面に出会う。05年、鋼鉄製橋梁(きょうりょう)の談合事件が世間を騒がせたとき、当時の経団連会長が記者会見で談合について「全国津々浦々に行きわたっている慣習のようなもの」と言い放ったのには仰天した。実際今も日本のあちこちで談合が続いているのであるから、元会長の発言は正鵠(せいこく)を射ていたことになるし、企業が地方公共団体まで、談合なしには経済が回らないのが実情でもあろう。してみれば元会長は実に正直に本音を話しただけだと言えるが、経済団体の頂点に立つ人として、やはり口にすべきでない本音というのがある。いや、正確には「あった」と言うべきか。というのも近年、口にしてよいこと、そうでないことの分かれ目が、いたるところで溶け出しているように思えるからである。口にしてよいことは、相手や場所に合わせた相対的な判断で決まるもので、その中身は本音である時もあるし、建前である時もある。本音がいつでも歓迎されるわけではないし、本音を述べることがいつでも正しいわけでもない。
'06.11.20.朝日新聞・作家・高村 薫さん
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