散歩道<1374>
経済気象台(87)・問題は現場ではなく本社に
ものづくりに関する最近の流行語は「見える化」だろうか。工程を始めとして、さまざまな潜在している職場の課題・問題点を、絶えず顕在化させるような仕組みづくりの、大切さを表現する言葉である。コストダウンや品質管理の改善にかぎらない、さまざまな日常管理の要諦(ようてい)として語られている。以前の流行は「暗黙知から形式知へ」だった。それは匠(たくみ)の技を個人のカン(勘)やコツの領域にとどめないで、誰でもが身につけられるようにマニュアル化(文書化)することの必要性を説く言葉だった。しかし日本(とくに工場)の現場は、もう十分に優秀であり、そんなにしてまで新しい提案が必要なのだろうか、という思いはある。もちろん完全だなどと思ったら進歩はないし、そんなことを考えている職場もないだろう。そこで思うに、日本の会社の問題(課題)は、現場ではなくトップにあるのではないのだろうか。大企業の経営者に関する暴露本などを読んでいると、その内容のすさまじさに驚く。自分は年功序列で出世を重ねたが、部下には能力主義・目標管理で、しかもまったく形式的で内容のない仕組みをつくり、トップの自尊心を満足させる為に、会社の全ての価値が費消されてしまった、というのである。それらは現場では起こりえない事柄だろう。課題や問題が見えないどころか、意図的に隠されてしまうのが「本社」なのではなかろうか。上司が気に入らないことは言わない、というより、何をどういえば相手が喜ぶか、といった気配りがまかり通るのが本社である。それは「暗黒知」の世界といってよい。確かに上司が気分よく働けるようにするのも部下の役割だろう。しかし、会社の価値を損ねるのはまずい。権力のトップが自らを掣肘(せいちゅう)するのはむずかしかろう。それゆえ、早期交代のルール化が必要なのだ。
'06.11.16. 朝日新聞
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