散歩道<1352>
経済気象台(77)・美しい国と通貨主権
安倍普三政権が「美しい国創り」をキャッチフレーズに掲げて誕生した。その姿勢からは、日本の主権国家の行使を意識していることを強く感じさせる。政治・外交・軍事の主権の行使にあたり、通貨主権の行使は密接で大きな役割を担う。「通貨主権を行使する」とは、「通貨価値・通貨政策を自ら決定し、他国に干渉されないこと」と定義される。通貨主権を行使し、「強い円」の実現を目指してはじめて、国益を「主張する外交」も可能になる。「強い円」は通貨を米国から国内に移動することで実現される。具体的には、為替市場で輸出代金のドルを売却し、円を買って国内に持ち帰るのである。その結果、米国の成長率は低下し、日本の成長率は上昇する。たまたま現在の局面では、「強い円」は米国の利害にも一致する。米国が自らの通貨政策を、「強いドル」から「弱いドル」へと転換することがありうるからである。米国経済は徐々に減速過程に入っている。これまで住宅ブームが景気拡大のエンジンだったが、約11年ぶりといわれる住宅価格の下落を指摘するまでもなく沈静化している。また住宅ローン残高の水準は、歴史的にみても極端に高すぎる。ブッシュ米政権が次に打つ手として考えられるのは経済成長のエンジンを住宅投資から民間設備投資に交代させることだ。幸い米国の民間設備投資はITバルブの崩壊後に調整が進み増加基調にある。更にアクセルを踏み込むには「弱いドル」がその効果を発揮しよう。ドルが弱くなると米国の輸入価格が上昇し、輸入が抑えられる。そして国内生産と輸出の採算を向上させて設備投資を誘い、製造業復活への期待が高まる。特に伝統的な米国の自動車産業を、現在の窮状から救い出すことも可能だ。日本が期せずして、通貨主権を行使することになるかもしれない。
'06.10.4.朝日新聞
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