散歩道<1274>

                    作家・丸谷才一さま面白い話・大集合(507)・1913袖のボタン・政治と言葉(2)         (1)〜(3)続く 

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1913 四字熟語づくしになるのはもっともで、これなら簡潔鮮明で威勢がいい。同上の歌学も浄瑠璃の詞章も参考にならない時、精々役に立つのは明治の師匠筋がこれなら四字熟語が活用されるのはあたりまえだ。しかしこのレトリックは、横綱や大関が、「不惜身命」(ふしゃくしんみょう)「不撓不屈」(ふとうふくつ)「堅忍不抜」などと晴れの席での挨拶に使ったため、滑稽なものになったし、□肉□食(正解はもちろん「弱肉強食」)に「焼肉定食」とこたえるという冗談のせいでいよいよ権限が薄れ、ほうぼうの書店が「四字熟語事典」を出すに及んで賞味期限*1が切れた。
 その政治的言語の危機に際して、「感動した!」とか「人生いろいろ、会社もいろいろ」とか、たあいもないけれどもとにかく新しい手口を工夫したのが小泉前首相である。他愛もないのは、咄嗟(とっさ)の発言だから仕方がないと同情することもできる。しかしじっくり準備した時は記憶に残る名セリフは出なかった。とにかく短い口語性が特徴で、ざっかけない(ざっくばらん、ざっくりの意)感じが妙に人気を呼んだ。しかしわたしとしては、ざっかけなくても構わないから、もう少し内容のあることを、順序だてて言ってもらいたかった。そういう口のききかたをして受けたのなら、どんなによかったろう。

'06.10.3.朝日新聞・作家・丸谷才一さま
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