散歩道<1273>
                    作家・丸谷才一さま面白い話・大集合(503)・1912 袖のボタン・政治と言葉(1)         (1)〜(3)続く 
                                                         

 1912.小泉首相の語り口はワン・フレーズ・ポリティクでいけないという、あの非難を耳にするたびに、おや、と思った。物心ついてからこの方、日本の政治はみなワン・フレーズであったからだ。わたしの歴史は6歳になったばかりの満州事変勃発(ぼっぱつ)ではじまったのだが、その張本人、石原莞爾(かんじ)は満州国の国是として「五族協和」をかかげた。天皇機関説が問題になると「国体明微」とか「万世一系」とか、「金おう無欠」とかがしきりに言われ、昭和史前半の標語は「八紘一宇」(はっこういちう)だった。近衛内閣は「聖戦完遂」と唱え続け、平沼内閣は欧州情勢が「複雑怪奇」であるとして退陣し、東条英機はいくさが敗れそうになると「本土決戦」「一億玉砕」などと強がり、いよいよ手を上げるとき鈴木内閣は「承詔必謹」(しょうしょうひつきん)と国民に諭した。吉田茂*1は南原繁を「曲学阿世」(きょくがくあせい)とくさし、池田勇人は「所得倍増」で、田中角栄は「列島改造」中曽根康弘は「不沈空母」だった。こうしてみると四字熟語の連続で、字数が多いのは「統帥権千犯」(北一輝)「大東亜共栄圏」「ABCD包囲網」(この2つは誰が言い出したかは不明)くらいのものか

'06.10.3.朝日新聞・作家・丸谷才一さま

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備考:丸谷才一さまが18年度文化功労者に決まった。おめでとうございます。!
備考:'12.10.13.丸谷才一さんが逝去された。ご冥福をお祈りします。