散歩道<1202>

                   思想の言葉で読む21世紀論・表層化(3)視覚優位 ネットで拍車         (1)〜(3)続く

 「思想の世界で起きた変化も見逃せない」と桜井氏は指摘する。「ものごとには隠された深層や見えない真実があるとする思想は、冷戦時代の終わりとともに力をうしなった。あとには見かけだけの世界が残った」。視覚優位は近代化とともに始まったとされるが、実際に視覚の文化が世界中に広がったのは、ごく最近のことだともいう。「衛星放送やインターネットの爆発的な普及で、地球の隅々の出来事を瞬時に目にできるようになった。この10年あまりの間に、世界全体が目に見える表面に浮かびあがってきたようだ」。しかも技術の進化は、鮮明な映像によって隠された細部も白日のもとにさらす。「全てが目に見え、隠れ場や逃げ場がない世界には危うさがある」と桜井氏は語る。
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 世界各地には「見ることの恐ろしさ」を伝える神話が残る。ギリシャ神話のメドウサーは見たものを石に変えてしまう。日本神話のイザナミは姿を見ないように告げる。そうした神話には、物事が見えすぎてはいけないという先人の知恵が込められていたのかも知れない。全てが鮮明に見える表層化の時代、人間はどう変えられようとしているのだろうか。


'06,9.6.朝日新聞