散歩道<1062>

                    時流自論・米「広報外交」の光と影(2)    (1)〜(3)続く

そのパブリック・ディプロマシーの進化が、今日、最も問われているのがイスラム地域だ。米国の安全ならびに政策環境を整えるためにも、この地域に渦巻く反米感情の改善は欠かせない。9・11同時多発テロ後、政権は「最優先国家戦略」の一環として、「ラジオ・サワ」やテレビネットワーク「アルフーラ」を創設、若者向け雑誌「ハイ!」を発行するなど、米国の文化やライフスタイル、社会の魅力をブランド化し、イスラムの人々の心をつかもうとした。又、米国がイスラム教を敵視しないことを示すテレビ公告も放映された。パン職人、学校教師、救急医療士、ジャーナリズム専攻の学生、政府の官僚している5人のイスラム系米国人が、米国社会の寛容さをアピールするものだ。しかし、この広告には米国内からも物議がかもし出された。米国のイスラム系市民を取り巻く「負の現実」が隠蔽されているというのがその理由だ。現在イスラム系米国人の数は600万人ともいわれ、大都市を中心に増加の一途にあり、数年内にはユダヤ系をしのぐことが確実視されている。うち黒人の改宗者が4分の1占めているのが特徴だが、その背景には、米国社会の底辺や周辺に生きる人々の深い絶望感がある。同時多発テロ後のブッシュ大統領はただちに声明を発表し、アラブ系(キリスト教が主流)やイスラム系への敵対行為に対して警笛を鳴らした。しかし、ヘイクトライム(憎悪犯罪)人権侵害は後をたたず、「マッカーシ−の暗黒時代の再来」と称する声さえあった。

'06.6.12.朝日新聞・  慶応大学教授・渡辺  靖氏

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