散歩道<1045>
三者三論・次世代と愛国心(2) (1)〜(2)続く
戦前の日本は、日露戦争のころまで、自立した国に足りるだけの外国戦略を考え、実行してきた誇りのある国だった。それが、愛国心がねじまげられ、日中戦争そして太平洋戦争になり、屈辱的な極東軍事裁判を受けた。戦争に勝っている時でも、自分達の限界点を理解し、どうやって終らせるかが、戦略的・自立的外交であり、まさに愛国である。「勝っている国でないと愛せない」と、妄想的になったのが間違いだ。戦後も同じことを繰り返している。バブル経済だって、いつかは途切れるのに、どんどんいって、伸び切って失敗した。「足ることを知る」こうした原理原則を学び、それに沿って行動していれば、失敗しなかった。男女の関係もそう。お互いをよく知らないくせに、「私はこの人を愛しています」というけど、だいたいそういうのは、ダメになるパターン。どんな事実が目の前にあっても、目をつぶるようになる。いやなところも何もかも知る。それでも愛せるのが本当の愛である。国を愛したいのであればまず「知」を愛する心を持たないと危険だ。そのためには過去の歴史に学ぶことが必要。さんざん知り、自発的に物事を考えることが出来るようになれば、自然と、正しい愛する心が生まれてくる。欲をなくす愛国心もあることがわかる。若い人が歴史に興味をもち、主体的に考えるようになって欲しい。僕が「日露戦争物語」を書いている理由はまさにそこにある。こうした準備もなく、国を愛することを考えると、他人に依存したり、自分のエゴを増大したりすることに免罪符を与えてしまう。愛国教育といっても、そもそも今の先生は、「日本のノベル賞受賞者は何人」「荒川静香はよかったね」「尖閣列島は返してはいけない」といった、短絡的なことしか教えられないんじゃないか。論理的に学ばなければ、「中国はむかつくから攻撃だ」などと言うだけの、マインドコントロールにかかった稚拙な人間に育ってしまう。だからこそ、勉強の動機は競争でなく、学問の喜びを感じさせることが大事。僕も教師をしていたことがあるが、「先生の言うこと、違うんじゃないの」とか、わざと矛盾したことを言うような生徒が、もっと増えてほしいよね。
'06.5.19.朝日新聞 漫画家・江川 達也氏
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