散歩道<1041>
世界の窓・人間性育み「魅力ある国」に(1) (1)〜(2)続く
10年前、当時のもギクシャクしていた日中関係の打開策について、ある大先達に尋ねたことがある。「それははっきりしている。魅力ある日本を創(つく)ることだよ」と、彼は明快に答えた。はっとする思いだった。しかし、戦後続いてきた右肩上がり経済は行き詰まり「失われた10年」の真っ只中にあった。何が魅力ある日本」なのか。一歩踏み込んで考えると暗中模索の状態だった。そして今日、もっとも仲良く付け合わなければならない隣国との政治的閉塞(へいそく)は深刻化の一途である。アジア各国のみならず米国からも、靖国問題で、小泉総理の「毅然(きぜん)とした態度」に喝采の声は聞こえない。こうした中で、外からも敬意をもって、「魅力ある国」だと素直に思われるような日本創りを真剣に志向することは、目先の打開策を構づる以上に重要な課題といえるかもしれない。「魅力ある日本」を考える時、三つのポイントがあるように思う。一つ目は、長きにわたって日本人自身が養ってきた「日本のよさ」を再確認し、より確かなものにすることである。世界に秀でた豊かな自然と調和した社会、人々が法と制度を順守し秩序が維持された安定した社会、充実した社会保障制度、不条理 な格差の少ない社会などが挙げられよう。二つ目は、急激なグロバル化 、情報化、市場化の波に適切に対応し、「安心、安全、充実」した社会のシステムを構築していくことだ。急激な波は社会を合理的で利便性の高いものに変えた。ITを使えばたいていの情報は即座に入手でき、地道な苦労をすることなく欲しいものを手にいれるチャンスが増大した。しかし、他方ではむきだしの成果主義、拝金主義、競争社会、格差社会を生み出した。合理性や利便性を保ちつつ、一点目に挙げたような社会をどう再構築するか、これかの課題だと思う。そのためにこそ、三つ目に「魅力ある日本人」をどう育て、日本に棲む外国籍の人々とともに「魅力ある地域社会」をどう創っていくのかという点が課題となる。
'06.5.17. 朝日新聞 早稲田大学教授・天児 慧(あまごさとし)氏
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