散歩道<6571>

                      科学季評・科学技術発展のリスク(4)   ・AI社会 新たな世界観を 

 たとえば、科学は人間の身体や心の動きを図や画像、数式によってとらえようとすが、それは生物の一側面に過ぎない。生物は本来、仲間や他の生物の動きを様々な感覚を用いて直観的に予測し反応している。そこに情報には還元出来ない認識力や生物どうしの関係が存在する。
 宗教学者の中沢真一は、言葉や自然科学など、事物を分類して整理する「ロゴスの論理位」に対し、事物を独立したものとして取り出さず、関係の網の目の中の作用として認識する「レンマの論理」が、人間に新しい世界観をもたらすかもしれないと述べている。
 レンマの思想は、大正から昭和初期に発展した「西田哲学」や、今西錦司の自然学にも反映されている。現代の科学は時間を空間的に理解しようとするが、生物はその2つを同時に直感的に認識する。それが生命の流れを感じる事だと西田幾太郎は言う。今西はこの世界の構造も機能も一つのものから分化したものであるから、生物は互いに理解しあい共存する能力を持っているという。その生命の認識や相互作用、生物どうしが織りなす全体像を、現代の科学技術はつかむことが出来ない。AIもレンマもつながりを重視することに変わりはない。ただ、手法が違うので、結果はまるで異なったものになる。情報によって効率的な暮らしを与えてくれるAI社会は、個体がデーターに置き換わり差別や格差を広げる危険をはらむ。一方で、レンマは生命のつながりや流れに目を開かせた、私たちに新しく生きる目的をもたらしてくれるかもしれない。
<検>科学、<検>IT

18.8.8朝日新聞・京大総長 山極寿一