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高階秀爾様の・美の現在(2)・文哉、是真、古径・自然への精密な観察眼近代に連なる日本の美
そのことをよく示すのが『五百城文哉(いおきぶんさい)(1863-1906)展』である生涯を通じて植物研究を続けながら、緻密(ちみつ)な描写力を生かした見事な作品群を残した。東照宮陽明門や五重塔の建物を細部まで丹念に描き出した壮麗な建築風景も興味深いが、何よりも圧巻は、自ら歩き回って観察した草花を1種類ずつ写した90点あまりの「高山植物図」である。それらわ、研究者としての詳細な観察眼に支えられてあくまでも正確に対象の姿を写し取りながら、草花に寄せる画家の深い愛情をつたえるかのように、一点一点が見る者の心に響く叙情的調べを奏でている。特に注目すべきは、草花の生えている岩間や地面などが、同じように正確に書かれていることである。精細可憐な花の絵は西欧においても様々な図鑑や或いは17世紀オランダの静物画などに数多く見られる。だがそれらはいずれも基本的に花だけ、又は花瓶の花であって、自然の世界から切り離されている。それに対して文哉の画面には、さわやかな高山の空気が流れている。文哉は、これら個々の花を壮大な山岳風景の中に配した植物風景画とでも呼ぶべき、大構図作品をも生み出した。そこでは厳しい科学精神と豊かな美的感性とが、迫力ある画面に見事に融合されている。「百花百草図」や「御花畑図」のような紛れもなく、日本の近代が達成した卓抜な成果の1つといっていい。
'05.8.3.朝日新聞、高階秀爾様
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