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ロンドン同時テロ・欧米社会に「自省」機運・対テロ戦争問い直しも
ロンドンで相次いだ爆弾テロの衝撃は事のほか大きく深い。容疑者は英国民、身内による犯行だったからだ。米主導の対テロは「敵か味方か」の論理で戦われてきた。その「敵」がもし欧州社会の内部で育てられてきたとするなら、先進国はそれにどう対応する。仏紙は「国外キャンプに訓練を受けた集団による去年のマドリード・テロと今回の事件は明らかに異なる。英国に生まれ育った移民の子供もたちが引き起こした。テロはもはや外部世界から来るものではない。先進各国の内側で、社会への絶望感に培養されたのだ」。米メディアも着眼点は変わらない。「ロンドン・テロを生んだ社会的疎外感、もって行き場のない憎悪、そして狂信主義は国産物であり、いつ爆発してもおかしくない。勿論米国でも」、ワシントンポスト、先進社会に内在するテロの脅威を、ベトナム戦争当時の地下トンネルにたとえる。解放勢力が米軍と戦う為に掘った無数のトンネルを「見えない敵と戦わせ、米軍を混乱に陥れるための完璧な作品」。私たちはこの地下の敵と戦っている。ただしベトナムと違うのは、現代のトンネルは私達自身が作った。テロリストが利用するのを防ぐのが難しい理由はそこにある。現代社会の「神経系」。移動や通信、意見交換の自由を保障する神経系は、同時にテロへも利便性を提供する。「ここで安全と自由は相対立して見えるのだが、それでも私達は双方とも譲るわけにはいかないのだ」。安全と自由のジレンマ。先進国は民主主義の抱える大きな課題に改めて向かい合う。仏紙ルモンドはテロ組織の壊滅を測る当局の闘いがいかに厳しいものであろうとも、民衆の自由・人権を侵すようではいけない。民主社会は人権に細心の注意を払う事で初めて、暴力や死をいとわないテロリストとの戦いに勝てる。この指摘は、テロと無関係な男性を警官が射殺した事件で一層現実味を帯びてきた。「テロを打ち破るのは警察ではなく民衆と地域社会だ、といったのは警官だ、その民衆の警察への信頼がこんなことでは大きく崩れる」。英紙ガーディアン内包するジレンマに揺らぐ民主主義の苦悩がにじむ。そこから議論はテロとの闘い、そしてイラク戦争へと移っていく。インターナシヨナル・ヘラルド・トリビューン紙「米ブッシュ政権は、自由を中東に広めればイスラム過激派テロの背後にある絶望感をぬぐえる、という論理でイラク戦争を始めた。では、ロンドンの事件でリーズ(英国中部の容疑者の出身地)は自由と無縁な都市だったというのか。戦争の大儀が問い直される理由はそれだけではない。マドリードに続くロンドンのテロで欧州は、国外派兵は自国の安全に何ら寄与しないと正しくさとった。イタリア紙コリエレ・デラ・セラ紙が訴える。イラク戦争反対を貫いてきた同紙が「欧州が米国と距離をおくのはいい。が、テロとの闘いから距離をおいてはいけない」。米国と違う何かをしなくてはいけない。その何かを今ほど求められている時はあるまい。自爆テロの波状攻撃を前にワシントン・ポストの述懐。「テロリスは人間性の放棄を武器に我々に立ち向かう。対抗して同じ態度を取れば、それは彼等を利するだけだ」。解答を導く糸口がここにあるのかもしれない。
’05.7.27.朝日新聞