散歩道<.4524>

                     時の回廊下・丸谷才一「たった一人の反乱」(2)                  (1)〜(3)続く
                        
純文学の戒律にあらがう

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 『たった一人の反乱』は、防衛庁に出向することを断わった元通産官僚が若いフッションモデルと再婚し、意図しない出来事に巻き込まれていく姿を描いた風俗小説です。風俗とは、うつろいやすい表面的な、どうでもよい現象と思われますが、むしろ人間の本質の最も具体的な現れ方となるものだと思います。小説的な様式美と同時にユーモアも重要な要素です。
 この元官僚が防衛庁への出向を拒むというのを『笹さまくら』の徴兵忌避とつなげて読む人もいますが、むしろ『女ざかり』(93年)で新聞社の女性論説委員が圧力を受けて配置換えになることにあらがう姿と通じています。つまり職業の自由という問題です。
 ぼくは町医者の息子だったから、周囲は医者になるものだと決め込んでいた。それが息苦しくて嫌いだったというのが原点にあったのだと、『女ざかり』を書いていて気づきました。

'11.8.31.朝日新聞 ・丸谷才一氏


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