散歩道<4205>
社説・ザ・コラム・非戦・人権 精神を受け継ぐ(4) (1)〜(4)続く
ジャーナリスト
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むのさんの「ペンとの闘い」を受け継いだのは、琉球新報の記者だけではない。昨年11月、52歳で逝った作家黒岩比沙子さんは、死の前月に「パンとペン」(講談社)を刊行した。昨年は明治天皇暗殺を企てた罪で幸徳秋水ら12人が死刑になった「大逆事件」から百周年。罪の大半は、社会主義者を弾圧するためのでっち上げだった。 黒岩さんは、獄中にいて連座を免れた幸徳の盟友・堺利彦が、広告から借金依頼まで、あらゆる代筆を引き受ける「売文社」を興して社会主義者たちの仲間を支え、大逆後の「冬の時代」を乗り切る姿を描いた。「パンとペン」は「ペンによってパンを得る」という売文社の口上。ユーモアを失わず、抵抗精神を貫いた堺たちの象徴だ。
「苦しい時代に、仲間を支えた堺の人間的な魅力を引き出した。この種の本では異例の7刷り1万6千部が出ています」と編集者の中村勝行氏はいう。
がん末期と知りながら死力を尽くして執筆した黒岩さんのパソコンには、「慢心するな。オマエは何様なのか。謙虚に、慎重に、丁寧に」などと書いたメモが張られていた。ここ10年ほど、黒岩さんが師事してきた、むのさんの教えだった。
「権力に都合のいい歴史をひっくり返す。ひたむきに、命がけの抵抗をした」とむのさんは黒岩さんの急逝を惜しむ。
日露戦争で非戦を唱えた幸徳や堺は、自由民権運動の精神を広げ、言論の自由や男女同権などの主張を掲げた。その多くが、日本国憲法下でようやく実現した。ごく真っ当な権利だ。
言い換えれば、今の憲法は、国家権力に対する数知れない人々の抵抗と、弾圧に倒れた屍(しかばね)のうえに成り立っている*3。
戦争を煽った過去を忘れない。むのさんから抵抗精神を受け継ぎ、憲法に結実した「非戦」や「人権」を命がけで守る。その「ペンとの闘い」が、今も私たちジューナリストの課題だ。
'11.3.9.朝日新聞・編集委員・*1外岡秀俊氏
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