散歩道<3870>
オピニオン・あすを探る・経済(3) (1)〜(3)続く
障害者活かすゲーム理論
社会的事実には、物理的事実と異なり、人々の意見で作られる、という側面がある。この点を明らかにしたのもゲーム理論だ。たとえば、通勤できない障害者は定職に就けない、というのはいかにも、もっともらしく聞こえる。みんながそう思っていれば、だれもそういう人と面接しようとは思わないし、本人も面接してもらえるとは思わないから、職探しをしない。みんなの考えが社会的事実となってしまうのである。
しかし、そのような「社会的事実」を変えることができるということもまた、ゲーム理論が教えてくれるところだ。実際、東京大学では今夏、先駆的な企業に倣(なら)って在宅就労制度を導入し、3人のIT技術者が経済学研究科の職員として自宅で働きはじめた。しかも、費用対効果が高い。オフイスは自宅なので、スペースを大学内に新たに確保する必要もないし、電子メールやウェブ電話の普及のおかげで懸案だった労務管理費用も無料同然である。
そして、この記事の読者の方々の間での「社会的事実」は、通勤できないが就労可能な有為の人材が社会の中に埋もれているというものになるであろう。このケースにおいては社会的事実をかえるために必要なのは、一つの成功事例とその「宣伝」なのである。
これまで障害者施策というと、弱者を援けるという福祉の色彩が強かった。しかし、成長が鈍化した現在、社会に埋もれている人々を活(い)かす経済的な施策こそ、もっと目を向けるべきである。それを通じて少しでも多くの人を社会の中に包み込んでいかなくてはならない。そして、明日の社会的事実は私たちの手によって変えることができるのである。