散歩道<3808>

                            経済気象台(598)・新興国ミー・トウー

 今では誰もが日本経済の成長拠点は新興国であると言っている。中国観光客の取り込み、農産物の富裕層への輸出販売など、これまで本格的な新興国戦略を講じてこなかったセクターまで新興国フイーバーである。彼我の成長力格差、そして潜在的な市場規模の巨大さを考えるならば。このこと事態はまともな判断であろう。しかし、それが正当な判断といえるかどうかは疑問である。
 危惧
(きぐ)せざるを得ないのは、判断が安易な上、その武器が貧弱だということである。まず成長しているかどうかという以上の理由が気迫である。しかも市場や顧客の研究が頼りなく、自分たちの何がこの新しい顧客に期待されているのかさえあいまいである。さらに競合する欧米の同業者はもちろん、現地の同業者に対して、自分たちの提供できる差別化された価値について精査されていない。
 たとえば、ファッションを売り込むという。しかし、日本が欧米とも違う価値をどれだけ提要できるのか。いくら日本ブランドでも中国製品を喜んで買う中国人はいない。日本の製造拠点はもはや解体の瀬戸際ではないか。そうなると新興国戦略とは国内事業の大幅な再構築を伴う。通信サービスを展開するという企業もあるが、既に世界一位の規模を持つ中国の通信サービスでは、欧州勢や韓国勢が基地局、端末分野で優位に立っている。これに対してどのような差別化された技術があるのか。このような「ミー・トウー」型の船出は必ずや失敗する。
 新興国が成長の柱と言えるのは、単に成長しているからではなく、この攻略に際し競争力そのものの抜本的な再構築をともなうからこそ、成長戦略と言えるのである。


'10.7.22.朝日新聞

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