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紙上特別講義D・対人関係・なぜ ・・・・・発想を変え
現代の人と人、人と社会との関係を話します。ある事件(奈良の女児誘拐殺害事件)・・についてレポートを書かせたところ、「厳罰が必要だ」「こういう人間を排除するにはどうすればいいか」との声は出ます。なぜ事件がおきたのか、社会的背景を探ったりする意見は少数です。どこか学生達が自分を安全地帯に置き、事件と心理的な距離をとろうとしているのを感じます。私は心理学でいう「防衛」の態度だと思います。価値観が多様化して、何を信じていいのか若い人は分かりません。「こう生きればよい」というモデルは崩れ、自分の考えや行き方に不安を抱いています。それは対人関係にも反映し、かれらはお互いに「嫌われたらどうしよう」とおびえ、傷つきやすく、自分の世界にこもりがちです。「相手は自分と同じ価値観か、それとも別か」ということを気にします。事件に対しても、善悪の二項対立だけから見て・・容疑者を「自分とは別の世界の人」と割り切ることで、自分を納得させようとしてしているのではないでしょうか。それ以上を深く考えようとしない。こうした心理は若者だけに限らない。奈良の事件後、性犯罪者の前歴を公開しよういう運動がおきた。しかし私は「それでいいのかと」思いました。勿論再発防止の手立ては必要ですが、ロリコン趣味をはじめ事件を生んだ社会や文化を巡る議論が殆ど盛り上がらなかった。注目をあつめたのは「どう取り締まるか」ばかりだった。それ以外の犯罪についても、犯罪の文化的背景について、多くの人が熱心に論じてきました。ところが今は事件がおきても「自分に被害がなければいい」というような、ひとごとのような空気を感じます。インターネットなどメディアの発達で、バーチュアルな世界に没頭し、現実の出来事から離れることも可能になりました。自分とは違う価値観の人や出来事を受け入れて考えるエネルギーが衰退しているのではないでしょうか。コミュニケーション力の衰え、対人関係の希薄化です。若い人には今こそ「なぜ」を深く考える想像力を持って欲しい。自分の世界に閉じこもらずに、現実の人や社会にかかわってもらいたいと思うのです。
'05.5.9.朝日新聞、香山リカ教授
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