散歩道<3224>

                  基調講演「資本主義の将来」(1)・金融危機の教訓 生かせ                  (1)〜(3)続く 
                      

株主の力 低下する時代に
 経済のグローバル化は、経済学の主流派が唱える自由放任主義の一種の実験だ。世界を市場で覆い尽くせば、経済は効率性も安定性も向上するというのだ。しかし効率化して経済成長しても、バブル崩壊のような不安定性を生む。
 会社は株主のもので、株主は何をしてもいいという考え方を、私は株主主権論と読んでいる。街角の八百屋で、主人が店のリンゴを食べても問題はない。すべて主人のものだからだ。この主人を株主と読みかえて、会社はすべて株主のものだと主張するのが株主主権論だ。しかしデパートの株主が売り場のリンゴをとって食べると窃盗罪になる。会社財産の所有者は法人としての会社なのだ。
 株主主権論者は、いかに経営者を管理するかを考え、経営者はみずからが株主になればいいという。経営者が自己利益を追求してくれれば、株主利益も同時に最大化されるはずだからだ。
 だが、理想郷なら経営者の倫理に任せられるが、残念ながら倫理は一番希少な資源だ。それで法によって律することになる。経営者は会社利益に忠実である義務を課せられる。忠実義務が会社統治の中心なのだ。株主主権論では倫理を経営者の自己利益に置き換えようとするから、粉飾決算や無謀な投資が実行されてしまう。
 世界は大量生産・大量販売の時代から、技術革新などで他と違ったものを生み出すことでしか利益を出せない時代に変わっていく。利潤の源泉がモノから人のアイデアや創造性へと動いている。人には自由意思もあれば複雑な感情もある。札束を見せても簡単には創造的な仕事をしてくれない。つまり金融が支配力を失い、株主の力も低下していく。今回の危機は、金融の凋落
(ちょうらく)の最初の表れだ。
 資本主義の真の敵は、自由放任主義だ。資本主義が健全に望ましい形で行き続けていくには、この自由放任主義から解放される必要がある。

2009.11.4.朝日新聞・パネル討論・東京大学教授・岩井克人氏、

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