散歩道<3117>                
                        opinion09政権交代・民主党で大丈夫か (1)             (1)〜(4)続く
                             なぜ自分たちか、まず胸に刻め                               

 国民自身の手によって政権交代が実現した。民主党が結成されてから十数年、この党が軸となる政権交代こそ日本の民主政治に不可欠だと主張していた者としては、個人的にも感慨深い。
 民主主義とはそもそも革命の制度化であり、昨日の少数派が今日の多数派になるというダイナミズムこそ、民主政治の本質である。政策選択以前に、国民の手によって権力の担い手を入れ替えることは、それ自体が民主政治にとって不可欠である。自民党が時には権力から離れる普通の政党になれば、メディアも国民ももっと自由にものが言えるようになり、社会の風通しはよくなるに違いない。
 政策の全体的な方向付けについても、多様な観点からの議論が活発になり、国全体として環境変化に対する感受性や対応力が高まるはずである。
 しかし、無邪気に喜んでいる場合ではない。この勝ち方を見ていると、民主党政権について様々な不安が湧いてくる。
 最大の疑問は、民主党の議員が、国民が一票に託した思いを的確に理解しているかどうかである。国民は、自民党を罰するために民主党に投票したのであって民主党に全面的な支持をしたのではない。その判断の根底には、単なる自民党政治に対する飽きではなく、過去数年の改革路線に対する否定的評価が存在している。
 親の経済的事情で学業を断念した若者の無念。介護に疲れて親を殺すことまで考える人の絶望。まじめに働いてきたのにもかかわらず職を奪われた人の怒りと不安。自民党政権時代に人間の尊厳を無視して顧みない社会が現れたことへの怒りが、責任などという言葉を平気で使う恥知らずの自民党を完膚無きまで打ちのめしたのである。民主党の議員は、自分がだれを代表するのか、政治活動を始めるに当って深く胸に刻むべきである。
 もし民主党政権が国民の窮状を救うことができなければ、国民はたちまち民主党に幻滅するであろう。そうなれば、今回の選挙に表れた国民の不満や怒りは、政党政治そのものへの拒絶に向かうであろう。メディアにおけるパフォーマンスだけが得意な怪しげな政治家が、既に出番をうかがっているのかもしれない。政権交代という好機を逸すれば、日本の民主政治はたちまちもっと大きな危機に陥ることを、民主党は銘記すべきである。

'09.9.3.朝日新聞
  北海道大教授 山口二郎氏

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