散歩道<2954>
                            凋落 アメリカの夢(4)                   (1)〜(4)続く           

手厚い年金 「負の遺産」
 GM問題には、実はもう一つの側面がある。かっての豊かさ」が高いコストのツケとなって重くのしかかるという米国の断面だ。
 「よき日々に従業員は高福祉のGMを「ゲネラス
(気まえのいい)・モーターズ」と呼んだ。それが今後は「ガバメント(国営の)・モーターズ」の略称になるかもしれない」。政府が新生GMの株の過半数を保有すると報じた先月27日付けニューヨークタイムス紙は、そう皮肉った。
 昨年末、ビッグ3が経営危機に陥ったデトロイトで、何度か「70j」という数字を聞いた。ビッグ3の労働者の平均時給だ。これに対して、日本車工場で働く組合未加盟の労働者の平均時給は45j。「こんな高コスト体質では日本車に勝てない」という話だ。だが70jの内訳を見ると、賃金は40j。15jが現役労働者の社会保険料で、残り15jが退職者の年金、医療保険料だ。
 「米国では第2次大戦中、インフレを避けるために製造業の賃金上昇を抑え、代わりに将来の年金を手厚くした。さらに戦後の50、60年代、米産業が圧倒的に強かった時代に、GMなど大企業は企業年金と医療保険を次々に値上げした」と、ペンシルベニア大で年金問題を教えるオリビア・ミチェル教授はいう。
 「学歴が低くても、GMで働けば豊かな生活と老後を保障される。古きよき時代のアメリカドリームでした」
 これほどの長寿社会になり、年金や医療費がかさむとは誰も予想していなかった。米国に中流層をもたらし大企業はここにきて、低金利で企業年金が運用に行き詰まり、株価下落で資産が激減し、売行きが落ちるという三重苦に見舞われている。
 翻って日本の場合はどうか。主に企業が年金や医療保険を提供する米国に比べ、公的年金、国民保険という日本の制度は充実している。だがここ数年の労働力の規制緩和で、多くの労働者は非正規雇用に置き換えられ、企業の社会保障から外された。しかも公的年金、国民皆保険という土台が、揺さぶられている。
GMの黄昏
(たそがれ)は他人事ではない。国民総中流を信じた「日本の夢」もまた、危機に大きく揺れている。


'09.6.2.朝日新聞・編集委員・外岡 秀俊氏

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