散歩道<2766>  
                
                     オバマ演説・希望を実感させる説得力(1)                 (1)〜(2)続く    

 オバマ大統領が誕生した瞬間、CNNの中継を同時通訳しているブースの中で、同僚と私は思わず快哉(かいさい)を叫んだ。これで久し振りに大統領らしい英語の通訳ができる。もっと正直に言えば、通訳者の頭が悪そうに聞こえ無いで助かる・・・。
 選挙戦に比べると、就任演説は抑制されたものに聞こえたかもしれない。有名な「イエス・ウィ・キャン」は一度もなく、「チェンジ」も二度しか出てこなかった。しかし、変化、希望、団結という彼のキーワードは、その奥に秘められている。
 就任演説をひとことで言うなら、「過去の成功体験を未来への希望へとつなごう」というものだ。アメリカは今、危機の下にある、だが過去にも建国のときの苦難を乗り越えたではないか、団結して克服していこう、と。
 「安全と理想の二者択一を拒絶する」と語ったのは、ブッシュ政権に対する批判だろう。冒頭で「ブッシュ大統領に感謝」と言いつつこの批判を織り込んだのは、自分は変化をもたらしていくのだということを明確に示している。
 クリントン氏以来、私は米大統領の演説や会見などの同時通訳をしてきた。クリントン
*1氏は南部なまりで親しまれたが、通訳者としてはあまりの早口で困ったことが何度もあった。オバマ大統領は若々しく、さっそうとしている。バリトンの声はよく響き、間の取り方もうまい。
 だが彼の演説の一番の特徴は言葉の力そのものにある。 
選挙戦中の演説で、三つの疑問を示したあとに、「答えは・・・」ではじまる三つの文章を並べるなど、3回の繰り返しが特徴的だった。勝利宣言でも「新たにエネルギーを開発し、新たに雇用をつくり出し、新たに学校を建てる」というように「新たに
(ニュー)を3回並べた。
 

'09.1.22.朝日新聞、東京外国語大教授・同時通訳者・鶴田 知桂子さん

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